高血圧 魂を塊にしよう!

医師が指し示したダンナのレントゲンは頭部のCT画像だった。

「この方は前にも脳出血を起こされているようですね。」

脳出血…

そう…ダンナは以前にも二度脳出血を起こしていた。

一度目は2012年の12月…
手が痺れてチカラが入らないという自覚症状が出て、心配した取引先の人から病院を紹介してもらい受診することにした。病院でCTを撮ったところ脳内に小さな出血痕が見つかる。早退をして会社から病院まで電車を乗り継いでいったダンナは、

「ここまで歩いてくるなんて死にたいのか!」

と医師から怒鳴られたらしい。
三週間近くの入院で絶対安静状態だったけど、幸い大事には至らず後遺症も残らなかった。
元々ダンナは高血圧で、このとき計った血圧は200超え!血圧が高いうえにお酒大好き、辛いもの大好き、脂っこいもの大好き!しかも当時はタバコも吸っていたから最悪だ。退院してから暫くはしおらしく節制に努めていたダンナ。
でも…喉元過ぎれば…とはよく言ったもので、退院をして半年を過ぎる頃にはお酒も以前と同じ量に戻り、タバコも本数が減ったもののいつのまにか吸い始めていた。そのうえ血圧のクスリもいつのまにか飲まなくなってしまっていたのだ。血圧のクスリは飲み続けたほうがいいという私に、頑固なダンナはもう治ったから飲む必要はないの一点張り。

そしてダンナは再び脳出血を起こしてしまう…

二度目は2014年の11月…
今でもよく覚えている…
いつもは酔っ払って大騒ぎして帰ってくるダンナが、その日に限って静かに、しかも険しい顔で夜の10時過ぎに帰宅した。
「何かあったの?」
「ん…いやぁ〜…なんか変なんだよ。手の感覚がないというかチカラが入らないというか…」
「えぇぇ〜!!また脳出血起こしてるんじゃないの?」

と、思わず声を張り上げてしまった私。ダンナも以前脳出血を起こしたときと症状が似ていたので、私の言葉を聞くとすぐに近所の救急病院に電話をかけた。

「一緒に行こうか?」
「いや、近所だしとりあえずひとりで行ってくるよ」

救急病院まではウチから徒歩5分ほど。ダンナが病院に向かってから1時間近く経ったときダンナから電話がかかってきた。

「家に帰れなくなった。このまま入院しろだって!」

ダンナがバツの悪そうな声で話す。私は電話をきるとビックリしてすぐに家を飛び出した。
病院に着くとダンナは既にベッドの上に寝かされている。ダンナが私の姿を見て上半身を起こそうとした途端、看護師さんに動いちゃダメでしょ!と怒られた。そのままダンナは病室に移動。私は医師から説明があるのでナースステーションで待つよう言われた。
夜の11時過ぎの病院は静かだ。消灯時間が過ぎているので廊下も照明が落とされている。
ナースステーションに入ると医師はこちらを見向きもせずにダンナのCT画像を見ている。私が医師の前に座ると怪訝そうにこう話し始めた。

「ご主人は今回で二度目の脳出血のようですが、ご主人は自殺でもしたいんですか?」

その時に言われた衝撃的な医師の言葉が今でも忘れられない。

「ご主人は以前にも脳出血を起こしているにも関わらずタバコも止めてない、お酒も飲んでる、しかも血圧のクスリも飲んでないとか?これはどう考えても死にたいとしか思えないでしょ?ご主人はご家族を不幸にしたいとしか思えませんね。これがどういう事かわかりますか?」

声を荒げて医師は私にそう話し始めた。
ダンナのCTの画像を見ると一度目の時と一緒に小さな出血痕がある。脳の右側の真ん中より少し下あたりに白く影が出来ていた。

「今回も運が良かったですね。一歩間違えば亡くなっていたか深刻な障害が残っていたところでした。そんな事になってしまったらご家族は大変ですよ!それがどういう事なのか、ご主人とよく話し合ってください。」

厳しい医師の言葉に頷きながら次第に涙が溢れてきた…
その時はとにかく悔しくて腹立たしくて…どうして私がこんなに怒られないといけないんだろう?私はあれだけダンナにしつこく何度も気をつけろと言ってきたのに…ダンナの自覚のなさが再び招いたことなのに…
そのあと私は病室のベッドで点滴を受けていたダンナに、泣きながら医師に言われた言葉をそのままガンガンぶちまけたけど、ダンナが素直に私の言葉に従うわけがない。ダンナの両親にも話し義父からも厳しく叱責してもらった。
二度目の脳出血も幸いなことに後遺症があまり残らず大事に至らなかったけど、握力だけはなかなか戻らず三週間ほど入院したあとリハビリに暫く通うことになった。
そして二度の脳出血でダンナもさすがに懲りたのだろう。退院してからダンナがタバコを吸うことはなくなった。
でも、お酒だけはどうしても止められなかった。元々の酒好きというのもあるけど、会社の付き合いや接待で酒席の機会が多かったせいというのはただの言い訳だ。次第にお酒の量も元どおり。
そしていつしか怪しい民間療法に凝り始め、ダンナ独自の健康法を実践するようになっていった。
降圧剤は飲むな!とか、こんなクスリは飲んではいけない!とか、食事の取りすぎは毒だ!とか、そんな健康本を読みあさりどんどんハマっていくダンナ…
私が何を言おうとスルー、スルー、スルー。次第に私や娘たちにも独自の健康法を押し付け始めた。そんなダンナに半ば嫌気をさしながらも、降圧剤だけはちゃんと飲みなさいと何度も言ったけど結局またクスリを飲まなくなってしまった。
2年に一度脳出血を起こしていたので、2年後の2016年の秋から冬にかけては、また脳出血を起こすのではないかと本当に怖かった。毎晩泥酔して帰ってくるダンナに、

「二度目の脳出血からそろそろ2年経つよ!そんなことばかりしてたらまた倒れるからね!いい?もう次はないよ!次に倒れたら死ぬか寝たきりになるかだから充分覚悟しながら飲んでね!」

泥酔して帰ってくるダンナに私や娘たちが代わる代わるそう声をかけていた。

そして…今回が三度目…

あれほど言ったのに…気をつけろって何度も何度も何度も言ったのに…
とうとう死神が迎えにきてしまった…

高血圧が安っ!!